冬の文庫
15時を過ぎると、エアコンのスイッチが切れたように冷え始める冬の八木山。
落ち葉と枯れ木を燃やしながら、さっきまでそれなりに暖を取れていたはずのチムニー・ストーブがだんだんとその存在感を薄めていく。
小さな火はそれだけで文庫を訪れる人々に暖かさを提供することができなくなる。チムニーの火が寂しそうな顔で弱くなり始めるのは、その日の文庫が終わる合図のようだ。
雪虫が羽をばたつかせる姿を横目に見ながら本を箱に詰めると、1時間ほど前にやってきた親子が笑顔で車へ向かっていた。
数冊の本を手に車へと乗り込んだ親子は、こちらに気づくとほんの少しの間だけ手を振って曲がり角に消えた。
寒空の道端文庫でベンチに座り、絵本を読み聞かせる親子の姿。
「昔読んだんです」と懐かしそうに漫画や小説を読む大人の姿。
少しずつ少しずつ、この「本のある風景」が八木山に馴染んできている。
夏に始まった道端文庫が秋を超え、冬に向かう中で、人々の目に留まる時間が増えてきている。
図書館、と呼べるほどの本量でもなく、屋根も壁もない「ただ、本がある」この文庫。
本を増やすこと、本棚を増やすこと、常設化すること、そこに音があること。
「図書館は地域の民度を高める」
道端文庫がある景色をこれからも作っていこう。
0コメント